2009.10.9 佐賀新聞掲載

住生活月間2009


豊かな住生活を実現するために

 

 10月は住生活月間です。「豊かな住生活」の実現のため、期間中は各地でさまざまなイベントなどが行われています。


 佐賀新聞では、これから4週間、毎週金曜日に「住生活月間特集」を掲載します。長期優良住宅や住宅瑕疵担保履行法など住宅に関する制度の話題から、住宅取得の資金計画、安全で快適に暮らすためのアドバイスなど、さまざまな情報をお届けします。豊かな住生活の実現にお役立て下さい。

 

「環境と建築デザイン」

 

建築家・佐賀大学准教授
平瀬有人

 

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 一昨年に建築設計の仕事をする機会を得て、スイスのバーゼルという小さな街(人口17万人)に1年間暮らした。バーゼルはフランス・ドイツ・スイスの3カ国の国境の街で、建築や芸術が文化の中枢をなしている豊かな国際都市である。市民は自分たちの街並や景観を大切にし、新しい建築がつくられるときには新聞上でデザインの議論が繰り広げられるなど、建築家にとっては本当に刺激的な街だった。


 スイスの住宅には日本で言う 「nLDK」というものは無く、住んでいたアパートは2つの居室と独立したキッチン室、風呂+トイレというタイプだった。それら3室は北側の大きな木のある中庭に面しており、日々緑の感じられる豊かな住環境であった。もちろん、日本とは異なる気候であることも大きな理由だろうが、直射光の差し込まない北側であっても、建築デザインに工夫を凝らすことで良質の住環境をつくりだしていた。


 一方、日本の住環境を考えてみる。特に集合住宅のデザインにおいては南側にリビングダイニングを設け、北側に入口・バスルーム・トイレといった「nLDK」型の画一的な間取りばかりである。いま住んでいる集合住宅は築35年の一般的な間取りのマンション。北側に豊かな公園があるが、その公園を望むことはできない。皮肉なことに、南側の窓から望めるのは、道路と向かいのマンションの外廊下だけ。南側に居室を設けることはもちろん良いことだと思うが、必ずしも通り一遍にすべきではなく、その場所の環境を読み取って適切な建築デザインを考えることで、スイスの住宅のように北側に向いていても豊かな住環境は生まれるはずである。


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 今まで東京・群馬・スイス・ドイツ・中国で建築設計に携わってきたが、場所の観察を通してその場所だからこそのデザインを考えてきた。当然のことながら建物が建つ敷地は場所によって全く環境が異なり、全国一律に同じ基準でつくられる住宅やマンションだけでは真の地域文化を育むことはできないだろう。その場所の地形・風景・環境・意味を追求し、建築のかたちを考え、その地域固有の材料や工法をアレンジして豊かな建築文化をつくっていくべきだと改めて感じている。

 

 

 

 

ひらせ・ゆうじん 1976年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科助手・文化庁新進芸術家海外留学制度研修員を経て、佐賀大学准教授・平瀬アトリエ・一級建築士

 

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