2010年10月 佐賀新聞掲載

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豊かな住生活を実現するために

 

 10月は住意識の向上とゆとりある住生活の実現を目指す「住生活月間」です。住まいや暮らし方への関心を高めてもらおうと、期間中、さまざまなイベントが行われます。佐賀新聞ではこれから4週間、毎週金曜日に「住生活月間特集」を掲載します。住宅取得に関する資金や助成制度から、環境に配慮した暮らし、安全で快適に生活するための知識など盛りだくさんの情報をお届けします。快適な住まいづくりにお役立て下さい。

 

「みんなのいえ/みんなのまち」

 

佐賀大学大学院工学系研究科助教

田口陽子


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 三谷幸喜監督・脚本による「みんなのいえ」という映画をご覧になったことはありますか?放送作家の夫妻が新居を建てる際、設計を妻の同窓でモダニズム建築に傾倒する建築デザイナーに、施工を大工の棟梁である妻の父に依頼します。両者の家の建て方をめぐって対立を繰り返すのですが、最終的にはみんなの意見が反映された家ができ上がるという、三谷自身の実経験に基づくコメディーです。


 この10月下旬から、「社団法人佐賀県建築士会・佐賀のまちなか居住研究会」(会長:三島伸雄佐賀大学准教授)が企画した社会実験で、佐賀大学の学生3人が佐賀市中心市街地の住人になります。住居は呉服町錦通りにある明治建築の土蔵の建物。ワークスペース付きのシェアハウスとするため、「みんなのいえ」さながらの改修工事が進んでいます。この実験住宅は、企画者と住人にとってはもちろんのこと、家主で呉服町自治会長の西山正義さん、物件を探していただいたユマニテさが、佐賀市から助成をいただいているので「市民にとっての家」でもあります。

 

 予算が限られているため、学生を中心に自前で設計・施工作業を行っていますが、工事全般の施工はテクノホームに、設備工事の施工は佐電工に多大なる協力をいただいています。ほかにも、いろんな方面から資材提供や施工に協力してもらっています。近所の皆さんも学生たちが住み始めるのを心待ちにしている様子で、差し入れをいただくこともしばしばです。映画同様、それぞれの思惑は異なるのかもしれませんが、家づくりのプロセスを通じて新旧住人のつながりができ始めていることは確かです。


 8nichi-2.jpgこの社会実験は空洞化するまちなかに若年人口を増加させることを狙いとし、また、大学生の力を借りてまちなかに活気を取り戻したいという地元の強い思いもあって実施に至りました。人口減少と少子高齢化は、佐賀市を含む多くの自治体が今後取り組まなければならない大きな課題です。その方策の一つとして、たとえ地方都市であっても新たな生活者を積極的に受け入れていくことが考えられます。


 幸い、佐賀のまちなかにはさまざまな公共施設が集積し、水路や歴史などの豊かな環境があります。また近郊には福岡を中心とする大都市圏があり、全国的に見てもユニークな生活圏を構築しうるポテンシャルがあります。


 そこで提案したいのが、地元生活者と新たな生活者をつなげる緩衝帯としての居住計画です。それは近年建設されている高層マンションとは異なるもので、保育所やデイサービスなどの公共的な場を内包する中低層の集合住宅です。


 実験住宅での取り組みもそうですが、地域に新たな生活者を呼び込み、地元との“化学反応”を起こしながら新しい価値観と生活サイクルを創造していく。それこそが、21世紀において「みんなのまち」をつくっていく近道ではないかと思います。

 

 

たぐち・ようこ 1975年、岐阜県下呂市生まれ。東京工業大学工学部建築学科から同大大学院へ進み、オランダのデルフト工科大学にも留学した。2008年12月から佐賀大学大学院工学系研究科助教。専門は地域建築計画で、佐賀大学地域連携デザイン工房、佐賀のまちなか研究会の事務局として、地域と教育に関するさまざまな企画も手がけている。1級建築士。佐賀市。

 

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