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口蹄疫との闘い(10月31日付)

 飼っていたペットが病気で死んでも、悲しみでしばらく立ち直れないのが人間である。今年の春、宮崎県を襲った口蹄疫(こうていえき)では、29万頭以上の牛、豚、羊、イノシシなどが殺処分、埋却された。この大災害が畜産農家の心に刻んだ傷は想像を絶するものがある◆被害地のひとつ、西都市で口蹄疫対策本部長として陣頭指揮をとった橋田和実市長が、現場の生々しい動きをつづった『畜産市長の「口蹄疫」130日の闘い』(書肆侃侃房(しょしかんかんぼう))を出版した。あらためて感染の恐ろしさと農家の悲しみが胸に迫ってきた◆都農町、川南町、えびの市と次々に感染が広がる中、橋田市長は「西都市だけは食いとめんといかん」と、農家だけでなく学校や公的機関、病院、金融機関、スーパーなどにも消毒の徹底を呼びかけた。だが現実は甘くなかった◆5月中旬、西都市では1頭も発生していないのに、政府は川南町、新富町の発生農場を中心に半径10キロ以内のワクチン接種を発表した。これは予防のためではなく、殺処分、埋却を意味する。橋田市長は悩んだ。「これまでの消毒は何だったのか。農家の心情を思うと言えるわけがない…」と◆しかし、国や県との交渉の中で、ワクチン接種はこれ以上ウイルスを蔓延(まんえん)させないための苦渋の選択と位置づけられた。橋田市長は頭を丸刈りにして農家の説得に臨んだ。「こん牛たちはよ、何も悪いことはしてねえのによ…」。家族同様に牛を育ててきた農家の嘆きが市長の耳に残った◆この本にはワクチン接種を行った獣医師や被害農家のインタビューも収められている。獣医師の一人は「生きる気力を失った農家のケアも大切」と指摘する。悲劇を繰り返さないためには、われわれも何があったか知らねばならない。(園)

2010年10月31日更新

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